東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)115号 判決
一 前掲請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立、その謄本の送達にいたるまで、中間の手続を含む特許庁における手続経過、発明の要旨(ただし、明細書補正の適否の点は暫く措く。)及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決の取消事由の存否について判断する。
1 まず、審決が本願明細書の第二次補正を無視して判断した点について審究すると、原告の二回にわたる手続補正書提出の経緯に関する被告主張事実は原告の認めて争わないところであるから、第二次手続補正書は特許異議の申立に対する答弁書提出のため指定された期間の経過後特許庁に提出されたものというべく、これによる明細書の補正は特許法第六十四条の規定により、不適法であつて、効果を生じるに由がないものといわなければならない。
原告は、当時における右規定の解釈並びに特許庁の取扱上、右期間経過後であつても、特許異議申立人の提出した弁駁書に対する再度の答弁書提出のため指定された期間内ならば、出願明細書の補正をすることができるものであると主張し、同条は、「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達があつた後に、第五十条の規定による通知を受けたとき、又は特許異議の申立があつたとき……明細書……について補正をすることができる」期間について、第五十条の規定による通知(拒絶理由の通知)を受けた場合のことだけを規定し、特許異議の申立があつた場合のことに言及していないが、第六十四条の立法趣旨及び規定の体裁を総合すると、特許異議の申立があつた場合についても、第五十条の規定による通知を受けた場合と平衡に考えて、第五十七条の規定により指定された期間内に限り補正をすることができる趣旨であると解するのが相当であるから、本件のように再度の答弁書提出期間内とはいえ、第一次の答弁書提出期間経過後に明細書の補正が許される筋合いはない。
してみると、審決が第二次補正を考慮しなかつたからとて少しも怪しむに足りないから、その故に、本願発明の要旨の認定を誤つたとして、これを前提に、審決の違法を攻撃するのは失当というべきである。
2 次に、審決が本願明細書の第一補正却下決定を是認して判断した点について審究すると、本願発明の第一次補正にかかる発明の要旨として前記一で確定した事実及び成立に争いのない甲第二号証(本願公報)によれば、本願発明は、右補正にかかる明細書の記載上、熱可塑性のフイルムないしシート又はシート状物を、化粧板成型材料の表面に接触させて加熱加圧成型した後、剥離することにより、簡単な操作で必要な半光沢度を有する合成樹脂化粧板を製造する方法であることが認められ、第一次補正が本願原明細書中、特許請求の範囲において規定されていなかつた化粧板成型材料の成型方法の構成についてこれを「加熱加圧」と規定するものであることは当事者間に争いがない。しかしながら、前出甲第二号証によれば、右にいう「加熱加圧成型」が原告主張のように、摂氏八〇ないし一八〇度程度の熱と一平方センチメートル当たり五ないし一五〇キログラム程度の圧力とを条件とするものであることについては、本願明細書中、特許請求の範囲にその旨の記載がなく、また発明の詳細な説明にもこれに関する説明の記載がないことが認められるから、右明細書には結局右条件の高・低圧積層成型のみにより発明を構成する意識がないものと解されるのみならず、成立に争いのない甲第六号証の一ないし四(技術文献)によれば、本願出願当時、積層成型技術としては、高圧成型、低圧成型のほか、一平方センチメートル当たり約五キログラム以下の加圧による接触圧成型も行われていたことが認められ、したがつて、これらの点を併せ考えれば、むしろ、本願明細書の第一次補正により、本願発明の構成として高・低圧積層成型のみを採り、接触圧成型を除外したものではないと解するのが相当である。なお、前出甲第二号証によれば、本願明細書に実施例として、摂氏一八〇度、一平方センチメートル当たり八〇キログラムの圧力で三十分間加熱加圧するもの、摂氏一五〇度、一平方センチメートル当たり八〇キログラムの圧力で六十分間加熱加圧するもの、摂氏一五五度、一平方センチメートル当たり一〇〇キログラムの圧力で三十分間加熱加圧するものが記載されているが、いずれも本願発明の実施態様であつて、その構成を限定するものでないことはいうまでもないところである。
そして、引用例中、当事者間に争いのない審決認定の記載と成立に争いのない甲第三号証(引用例)によつて認められるその余の記載によれば、引用例の方法は、その明細書の記載上、合成樹脂化粧板の製造について接触圧成型を行い、成型時の熱と圧力を適当に調整して化粧板の表面に微細なしわを多数生じさせることにより、新規な化粧効果を付与するものであることが認められる。
してみると、本願発明は、第一次補正を経ても、その明細書中、特許請求の範囲記載の事項による構成において引用例と異なるものではないといわざるを得ないから、その出願の際独立して特許を受けることができるものとはいい難い。もつとも、前記認定のように、その明細書の記載上、本願発明は化粧板表面に必要な半光沢度の効果を奏するものとされているのに対し、引用例の方法は前出甲第三号証(引用例)によつても化粧板の表面にそのような効果を与えることを目的とするものと認めることができず、むしろ、その明細書の記載上は、前記認定のように、化粧板の表面に微細な多数のしわを生じさせることによる新規な化粧効果を奏するに止まるものであるが、両発明の技術的構成が同一である以上、特別のことがない限り、本願発明による前記のような効果も実際には引用例から当然想到し得る範囲を出でないものと認めるのが相当である。
したがつて、審決が右補正の却下決定を正当としたのは相当であるから、右決定を是認したため本願発明の要旨の認定を誤つたとして審決を違法とする原告の主張は失当である。
三 よつて、本件審決に違法があると主張して、その取消を求める原告の本訴請求を理由がないものとして棄却する。